令和5年5月25日

週刊文春 2023年5月25号 掲載記事
『危険な「砂糖」との付き合い方』に関する見解

2023年5月25日
精糖工業会

週刊文春2023年5月25日号に、『危険な「砂糖」との付き合い方』と題する3ページの記事が掲載されました。

当該記事は、昨今、著名な芸能人が「砂糖断ち」を公言する中、砂糖が健康にどのような影響を与えるのかについて検証するという構成になっていますが、砂糖について読者に誤解を与えかねない部分が散見されましたので、当会としての見解を記します。

1.糖尿病との関係について

記事では、「砂糖が健康に与える影響の最悪の結果が糖尿病だ」とし、取材した医師の見解として「砂糖は体の中に吸収されやすいのが特徴で、肥満の原因になるとされます。また、血糖値の乱高下を招き血管を傷つけ心疾患・脳血管疾患にもつながります」と掲載しています。

しかし、この医師のコメントは、肥満・心疾患・脳血管疾患につながるとは言っていますが、砂糖摂取と糖尿病との関係については触れていません。

また、1980年代から1990年代のFAO/WHOや米国FDAといった公的機関の検証で、肥満・心疾患・脳血管疾患と砂糖摂取の関係については「直接的因果関係はない」と結論づけられており、その後、それを覆す研究データは発表されておりません。

一方、記事には「砂糖は血糖値の乱高下を招きやすい」との指摘がありますが、これも正しくありません。

食品などの血糖の上げやすさを示す指標の一つであるグリセミック・インデックス(GI)については、その出典により様々な数値が存在しますが、我が国の信頼できる研究者からの代表的な砂糖(ショ糖)の数値*1は以下の通りになっています。

*1 佐々木敏著「データ栄養学のすすめ」より

食品 GI値
ブドウ糖 100
白パン,白米 73,75
砂糖(ショ糖) 65

上記の数値から、砂糖(ショ糖)はブドウ糖と比較してGI値が低く、更にパンや白米よりも低い値を示しており、砂糖(ショ糖)は決して「血糖値の乱高下を招く」食品ではないと考えます。

また、食事による血糖の上昇度合いは、摂取時の食品の形態や摂取の仕方(飲料か固形か、単一成分か複合成分か、食べ合わせなど)にも大きく影響されます。従って、単純に「砂糖は血糖を上げやすい」とするのは、説明不足であり、上記の客観的なデータから見ても誤解を招く表現であると考えます。

そもそも、糖尿病は、遺伝的素因・内臓脂肪・運動不足・ストレスなどの要因が複合的に重なって起こると言われています。砂糖も食品の1つとして関わりがあることは否定しませんが、少なくとも「砂糖=糖尿病」という短絡的・直接的に繋がるものではありません。

2.砂糖の摂取目標について

記事では、WHO(世界保健機関)の砂糖の推奨摂取量は50g/日以下とした上で、日本の摂取量は76.7gでWHO推奨量より26g以上多いとしております。

しかし、WHOの推奨摂取量では、“free sugar”となっており、「砂糖」ではなく「遊離糖類」であり、単糖類や、砂糖が含まれる二糖類、蜂蜜、シロップ、果汁、濃縮果汁など幅広く対象としております。これに併せて、日本の摂取量についても、農林水産省が公表している砂糖(分みつ糖及び含みつ糖の消費量)の数値(2021年度 39.5g)と大幅に異なっていることから、砂糖以外の遊離糖類を含ませているものと推測されます。それにもかかわらず、記事は、何らの注釈もせず、「砂糖」の一般的な定義を大きく逸脱して記載しており、読者の誤解を招くものとなっています。

また、WHOではこの遊離糖類の基準を推奨していることは事実ですが、一般的に、アメリカ、イギリス、フランス、中国、韓国など諸外国では、独自の基準を設定しています。

一方、日本では、糖類について、加工食品は栄養表示に記載が義務付けられておらず、国民健康栄養調査の対象にも対象になっていないことから、その摂取量の実態もつかめていません。

また、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、「糖の健康影響はその種類によって同じではない。特に、糖類(単糖及び二糖類)と多糖類のそれでは大きく異なる。その健康影響は、その摂取量実態も含めて、日本人ではまだ十分には明らかになっていない。それぞれの目標量の設定に資する研究(観察研究及び介入研究)を進める必要がある」とされています。

その中で、そのような事情を捨象してWHOの基準を前提にして論旨を展開することは誤解を招くものと考えます。

3.「控えた方がよい」とする砂糖(分蜜糖)について

記事では、控えた方がよい砂糖の代表格として「白い砂糖」であるグラニュー糖、上白糖、ザラメ、三温糖などの分蜜糖を挙げ、これらの砂糖が精製により栄養素が失われ、血糖値も上がりやすいとしています。

まず、砂糖が必ずしも血糖値を上げやすい食品ではないことは、前述した通りであることを改めて申し述べます。

「砂糖を精製する」とは、精製の過程で砂糖(ショ糖)分以外の成分を取り除きますから、このことをもって記事のように「精製糖は栄養価が低い」ということがしばしば言われます。

しかし、砂糖は主食ではなく、基本は、砂糖だけで食することは殆どなく、料理や菓子の甘味付けに使用されるもので、摂取量はおのずと限られてきます。

一方、砂糖の無機質(ミネラル)の含有量をみてみると、日本食品標準成分表(八訂)によれば、上白糖、グラニュー糖が0%、三温糖は0.1%、黒砂糖は3.6%です。

これを基にすると、砂糖小さじ1杯で約4gですから、三温糖小さじ1杯中のミネラル分は0.4mg、黒砂糖は144mgです。一方、牛乳1本(約200g)あたりのカルシウム含有量は220mg、にんじん100gあたりのカリウム含有量は270mgです。

全ての栄養素を含み、「これだけ食べれば良い」という万能食材はありません。ですから、人間にとって重要な炭水化物、タンパク質、脂質を3大栄養素、ミネラル・ビタミンを加えて5大栄養素と呼んで、これらをバランス良く摂取することが大切になるのです。また、砂糖は味噌、醤油、お酢などと同様に調味料ですので、牛乳や小魚などと異なりミネラル補給の目的で砂糖を摂取することを想定しなくてもよいのではないかと考えます。

従って、「精製=ミネラル・ビタミンなどがない=悪い」という表現は短絡的であると考えます。

4.「危険」という見出し表現等について

記事では、表題を「危険な『砂糖』」という表現を用いておりますが、砂糖は、紀元前から存在し、全世界で食されているさとうきびやてん菜を由来とする自然食品であり、脳と体のエネルギー源となる国民にとって不可欠な基礎的な食料です。もちろん、「いくら食しても大丈夫」などと申し上げるつもりはありませんが、そのような食品を「危険」と決めつけ、読者を煽ることになりかねず、避けるべきであると考えます。

また、記事全般で、本来の砂糖でない異性化糖や人工甘味料なども含めて、いわゆる「砂糖」として一括りにすることは一般的な用語の使い方ではなく、読者に混乱と誤解を与えかねず、避けるべきことであると考えます。

以上

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